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SYNAPXIS INSIGHTS  /  02

値上げの理由の優劣は、業種で入れ替わる

2026年8月 | 価格転嫁率 31業種 後編

労務費の価格転嫁は、原材料費に比べて進んでいない。2023年に労務費指針が策定されたのも、この認識の上に立っている。だが転嫁率のばらつきを要因ごとに分解すると、理由の違いが占める分はごくわずかだった。

ばらつきの八割は、業種の違いで説明できる

各業種について、原材料費・エネルギー・労務費の転嫁率を並べる。この散らばりがどこから来ているかを分けると、業種ごとの平均の差が80.1%を占めた。コスト要素ごとの平均の差は7.5%にとどまる。

転嫁率のばらつきは、何で説明できるか 31業種 × 3つのコスト要素 計93の数値 原材料費・エネルギー・労務費の転嫁率の散らばりを、要因ごとに分解した。 80.1% 業種の違い 80.1% コスト要素の違い 7.5% 組み合わせ 12.4% 「業種の違い」は業種ごとの平均の差で説明できる分、「コスト要素の違い」は原材料費・エネルギー・  労務費という要素ごとの平均の差で説明できる分。「組み合わせ」は、業種によって要素の順位が  入れ替わる分にあたる。 金融・保険は除外。エネルギーコストの転嫁率が12.9%と、他のどの業種からも大きく離れているため。 © 2026 SynapXis Inc.

要素間の差そのものは、統計的に認められる水準にある。ただし説明力は業種の十分の一以下だ。どの理由を掲げて申し入れたかより、どの業種に属しているかで決まっている。

順位が入れ替わるのは、指針が名指しした業種

残るおよそ一割は、業種によって要素の順位が入れ替わる分である。コスト要素の違いが説明する7.5%を上回っている。実際、九つの業種では労務費のほうが原材料費より通っていて、順位が逆になっている。

労務費と原材料費、どちらが通っているか 31業種 2025年10月〜2026年3月 労務費の転嫁率から原材料費の転嫁率を引いた差。右に伸びる業種は、労務費のほうが通っている。 ■ は、公正取引委員会が労務費率の高い業種として挙げた区分に対応する業種。 -20 -15 -10 -5 0 +5 +10 ← 原材料費のほうが通っている   労務費のほうが通っている → 警備 +13.1 飲食サービス +10.4 通信 +5.8 ビルメンテナンス +5.3 情報サービス +4.6 不動産・物品賃貸 +1.7 生活関連サービス +1.5 トラック運送 +1.3 運輸・郵便 +0.9 放送コンテンツ -0.3 廃棄物処理 -1.9 建設 -2.9 農業・林業 -3.1 電気・ガス・水道 -4.7 造船 -6.4 繊維 -7.1 建材・住宅設備 -7.6 鉱業・採石 -7.6 食品製造 -7.7 広告 -8.2 機械製造 -8.2 印刷 -8.9 自動車・自動車部品 -9.4 電機・情報通信 -10.0 小売 -10.7 金属 -11.3 紙・紙加工 -11.5 卸売 -12.7 化学 -15.4 石油・石炭製品 -16.2 製薬 -21.0 価格転嫁率=コスト上昇分のうち販売価格に反映できた割合。全体では原材料費55.7%、労務費50.0%。 金融・保険は除外。エネルギーコストの転嫁率が12.9%と、他のどの業種からも大きく離れているため。 本調査は消費者向け取引が中心の業種を対象から除く。「飲食サービス」は店舗ではなく、  発注者となる事業会社を持つ飲食事業者を指す(給食委託など)。 © 2026 SynapXis Inc.

公正取引委員会は労務費指針を作るにあたり、コストに占める労務費の割合が高い業種として六つの区分を挙げた。この調査に対応する業種があるのは、技術サービス業を除く五区分である。ビルメンテナンス業と警備業が一つの区分にまとめられているため、対応する業種は六つになる。そのうち五つが、労務費のほうが通っている側に並んだ。偶然にこれだけ重なる確率は0.4%である。

労務費が主なコストである業種では、労務費が値上げの根拠として通っている。理由そのものに優劣があるのではなく、その業種にとって何が主なコストかで決まっている、と読める。

この調査が測れていないもの

転嫁率は、要請した企業がどれだけ価格に反映できたかを示す。要請しなかった企業は、この数字に現れない。公正取引委員会は、労務費率の高い業種ほど、そもそも要請していない受注者が多いことを指摘している。通りやすいことと、実際に通っていることは別である。

金融・保険は分析から外した。エネルギーコストの転嫁率が他のどの業種からも大きく離れており、この調査が扱う原材料費・エネルギー・労務費という枠組みに当てはまらないためである。

また、この調査は消費者向け取引が中心の業種を対象から除いている。ここでいう飲食サービスは店舗ではなく、発注者となる事業会社を持つ飲食事業者を指す。

消費者には、誰が転嫁できているのか

対象から外れているということは、消費者を相手にした値上げがどこまで通っているかを、この枠組みでは測れないということでもある。前編と後編で見てきたのは、あくまで事業者間の話である。次はその外側を見る。

用語

価格転嫁率
コストの上昇分のうち、販売価格に反映できた割合。原材料費・エネルギー・労務費のコスト要素別にも集計される。
ばらつきの分解
ある数値群の散らばりが、どの要因によるものかを割り振る手法。ここでは業種の違い、コスト要素の違い、その組み合わせの三つに分けている。
労務費指針
2023年11月に内閣官房と公正取引委員会が策定した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」。人件費の上昇分を価格に反映しやすくするため、発注者側に六つの行動を求めている。

出典

中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(2026年6月26日公表)をもとに作成。集計期間は2025年10月〜2026年3月。業種区分は公正取引委員会「令和5年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」と照合した。

公正取引委員会の特別調査では、労務費の転嫁率は中央値30.0%、平均45.1%で、原材料価格(中央値80.0%)と大きく開いていた。本稿が用いた中小企業庁の調査で労務費が50.0%となっているのは、調査時期が新しいことに加え、対象の選び方が異なるためと考えられる。公正取引委員会は労務費率の高い業種を重点的に選び、中小企業庁は産業構成に沿って広く抽出している。どちらがどれだけ効いているかは、この二つのデータからは分けられない。

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