SYNAPXIS INSIGHTS / 01
価格転嫁の巧拙は、業種ごとの交渉力の差として語られることが多い。だが中小企業庁の調査を二つの角度から重ねると、別の構図が浮かぶ。発注側として転嫁に応じている業種ほど、受注側としても転嫁できている。
この調査は、同じ価格転嫁率を発注企業の業種別と受注企業の業種別の二通りで集計している。どの企業も、仕入れでは発注側に、販売では受注側に回る。業種ごとに両者を突き合わせれば、その業種が転嫁の連鎖のどこに位置しているかが見える。31業種の点を一枚に置くと、おおむね右上がりに並んだ。
図に、二つの転嫁率が等しくなる線を引いた。ここから下に離れているほど、発注側として応じた分に比べて、受注側としては通せていない業種ということになる。この差を乖離と呼ぶ。
乖離が最も大きいのは飲食サービスで15.2ポイント。次いで不動産・物品賃貸が11.9ポイント、製薬が10.5ポイントで続く。
医療用医薬品の価格は薬価制度で決まり、値上げは法的に封じられている。その製薬を上回る乖離を抱える業種が、二つある。価格を法で縛られているわけでもないのに、コスト上昇を自社の内側に留めている。
乖離の大きさは、収益の悪化を意味しない。もとの利幅も原価構成も、この調査の外にある。応じなかったのか、そもそも要請を受けなかったのかも判別できない。
金融・保険は分析から外した。エネルギーコストの転嫁率が12.9%と、他のどの業種からも大きく離れているためである。金融業の主なコストは資金調達にかかる金利だが、この調査が扱うのは原材料費・エネルギー・労務費の三つに限られる。測れない対象を、同じ物差しに並べても意味がない。
もう一点。この調査は消費者向け取引が中心の業種を対象から除いている。ここでいう飲食サービスは店舗ではなく、発注者となる事業会社を持つ飲食事業者を指す。
値上げを申し入れる際の根拠は、原材料の高騰か、人件費の上昇か、燃料代か。同じ調査は、この根拠ごとの転嫁率も出している。全体で見れば、人件費を根拠にした転嫁率は、原材料費を根拠にした場合より低い。ところが業種によっては順位が入れ替わり、人件費のほうが通っている。どこで入れ替わるのかを、後編で扱う。
後編を読む 値上げの理由の優劣は、業種で入れ替わる
中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(2026年6月26日公表)をもとに作成。集計期間は31業種 2025年10月〜2026年3月。
価格転嫁が業種間で連動していることは、株式会社バイウィル カーボンニュートラル総研のブログ「価格転嫁の先にあるもの ― 価格転嫁率が映すGXの課題 ―」(2026年4月8日)でも指摘されている。同記事は化学とトラック運送の二業種を例に、ひとつ前の2025年9月調査をもとに触れている。本稿は31業種すべてを突き合わせ、連動の強さと、そこから外れる業種を扱った。
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