SYNAPXIS INSIGHTS / 08
ここまでの3本で、宿が増えた場所と減った場所、そして稼働率が動いた理由を見た。では、その宿に来ている外国人の中身はどうなっているのか。東京都を除く46県で外国人延べ宿泊者数の増減を市場別に分けると、県ごとのばらつきの80.5%が近距離アジアの増減で説明できた。
ある県の外国人延べ宿泊者数がどれだけ増えたかは、市場ごとの増減を足したものにちょうど一致する。近距離アジアが何人泊ぶん増え、欧米豪が何人泊ぶん増え、それ以外が何人泊ぶん増えたか。それぞれをその県の2019年の総数で割れば、増減率のうち何ポイントぶんがどの市場によるものかが出る。3つを足せば、その県の増減率になる。
この分け方で46県を並べると、棒の長さを決めているのが近距離アジアの色であることが見て取れる。欧米豪の色は、どの県でも似た長さで並んでいる。
県ごとの増減率のばらつきを市場別の寄与度に分けると、近距離アジアが80.5%、欧米豪が13.5%、その他が6.0%になった。3つの和は1になる。
2025年の構成比は近距離アジアが64.0%、欧米豪が20.8%である。ばらつきに占める割合のほうが、構成比よりも近距離アジアに寄っている。人数が多いだけでなく、県による動き方の差も大きい。
なぜ相関ではなく分解を使うのか。近距離アジアは外国人全体の6割を占めるので、その増減率と総数の増減率を突き合わせれば、相関は計算上高く出る。部分と全体が重なっているからで、それは県ごとの動きを説明したことにならない。増減の内訳に分けてしまえば、この重なりが起きない。
欧米豪は46県のうち45県で増えた。減ったのは鳥取県だけである。それでも外国人延べ宿泊者数の総数が減った県が10あり、そのうち9県では欧米豪は増えていた。
静岡はその典型で、欧米豪が110.0%増えているのに総数は9.4%減っている。近距離アジアが24.0%減っており、そちらの構えのほうが大きいためである。静岡の外国人延べ宿泊者数に欧米豪が占める割合は13.7%で、2倍に増えても総数を支えるには足りない。
県ごとの増減のばらつきは、その80.5%が近距離アジアの増減で説明できる。欧米豪は46県のうち45県で増えているのに、総数が減った10県のうち9県ではその増加が届かなかった。静岡は欧米豪が110.0%増えても総数が9.4%減っている。構成比が13.7%では、倍にしても総数は支えられない。
長期滞在や高い単価を理由に欧米豪の誘客が語られることは多い。だがそれは単価の話であって、県の延べ宿泊者数という物差しでは、欧米豪をどれだけ増やしても数字は動きにくい。目標をどちらの物差しで置くかで、打つ手は変わると思われる。
一方で、寄与度が大きいということは、その市場が振れたときに県の数字も振れるということでもある。近距離アジアは為替や相手国の事情で動く。県の宿泊者数のうち、自県の努力で動かせる部分は思うより小さい。延べ宿泊者数を誘客施策の成績表として使うなら、そこは差し引いて読む必要がある。
②の終わりに、次で扱うものとして宿泊費の水準・宿泊施設の数・宿泊者数そのものの増減の3つを挙げた。③と⑤で施設の数を、④と⑤と⑥で宿泊者数の増減を見た。宿泊費だけが残っている。宿泊旅行統計には価格が入っていないため、別の統計に移らないと扱えない。シリーズはここまでとする。次は、旅行者が宿と宿の外でいくら使っているのかを、消費の側の統計で見る。
観光庁「宿泊旅行統計調査」年の確定値(2019年および2025年)の国籍別内訳をもとに作成。従業者10人以上の施設が対象。
国籍別の内訳がある集計は従業者10人以上の施設に限られるため、地方の小規模な宿は含まれない。構成比は都市寄りに出る。東京都は水準が桁違いで、1県で分解全体を左右するため除いており、除いた影響がどれだけあるかはこの分解からは分からない。市場の区分はこの記事のなかで定めたもので、公的な分類ではない。分解は増減の内訳を示すもので、その市場がなぜ動いたのかは扱っていない。為替も、航空路線も、相手国の政策も、この統計の外にある。
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