SYNAPXIS INSIGHTS / 07
④で、稼働率を動かす3つの要素が都市と地方で逆を向いていること、地方では延べ宿泊者数も客室数も減っていることを見た。減った側で何が起きているのかを、供給の中身から見る。人口が小さい12県を取り出すと、延べ宿泊者数が3.5%減り、旅館・ホテルの施設数が増えた県はひとつも無く、簡易宿所だけが12県すべてで増えていた。
人口が小さい12県とは、鳥取・島根・高知・徳島・福井・佐賀・山梨・和歌山・秋田・香川・富山・山形である。この12県の延べ宿泊者数は2019年から2025年に3.5%減った。全国は10.9%増えているので、向きが逆である。12県のうち8県で減っている。
内訳を見ると、日本人が7.1%の減少、外国人が28.1%の増加。外国人は増えているが、全国の55.6%には遠い。日本人のほうは全国が0.2%とほぼ横ばいなので、この12県では日本人が抜けた分を外国人が埋めきれていない。
外国人が延べ宿泊者数に占める割合は10.2%から13.5%へ上がった。全国は19.4%から27.2%なので、割合は上がっても差は開いている。
供給の側は、需要と同じ向きに動いている。この12県で旅館・ホテルの施設数が増えたのは0県、客室数が増えたのは3県だけだった。施設数は合計で827件、客室数は1,742室減っている。
1施設あたりの客室数は23.8室から26.6室へ上がった。畳んでいるのは小さい宿のほうである。③で見た東京や沖縄とは向きが逆で、都市では小さい宿が増え、地方では小さい宿が消えている。
客室稼働率は63.9%から63.6%で、ほぼ動いていない。客が減っても、その分だけ部屋を減らせば稼働率は保たれる。この12県が保っているのはそういう均衡であって、需要が戻ったからではない。
旅館・ホテルが減る一方で、簡易宿所は12県すべてで増えた。増加率の中央値は27.0%で、全国の20.4%を上回る。グランピング施設やコンテナ型の宿がこの区分に入る。
ただし簡易宿所には客室数の記録がない。営業許可の台帳が数えているのは件数だけである。何室ぶんの収容力が足されたのかは、この統計からは分からない。増えた簡易宿所が埋まっているかどうかも同じく分からない。
日本人の国内宿泊旅行を、旅行した人の側から聞いた統計で見ると、延べ泊数は8.5%減っている。ところが目的別では観光・レクリエーションが5.4%と増えており、減っているのは帰省・知人訪問等が18.1%減、出張・業務が18.9%減である。
泊まった先の別は、率と量で見え方が変わる。まず率から見る。
泊まった先で見ると、率で最も増えたのは民泊の83.7%、最も減ったのは会員制の宿泊施設の44.5%である。ただし民泊は2019年に3,000千人泊しかなく、率の大きさが量の大きさを表さない。点線で囲んだ旅館の10.2%減、保養所・研修施設の37.3%減、会員制の44.5%減は、あとで12県の供給と突き合わせる。
量で見ると、順番が入れ替わる。増えたのはホテルの33,236千人泊で、減ったのは実家や親族・知人宅の36,988千人泊、旅館の7,126千人泊である。減った区分だけを合計すると61,208千人泊で、そのうち60.4%が実家や親族・知人宅にあたる。ここは宿泊施設ではない。日本人が宿に泊まらなくなった、という形ではない。
この11区分は、足すと同じ表の合計を上回る。2019年で1.5%、2025年で7.1%多い。1回の旅行で複数の種類の宿に泊まった場合の扱いによると考えられるが、確かめていない。全体に対する割合としては使えないので、上の数はすべて11区分の中で閉じている。
旅館、保養所・研修施設、会員制の宿泊施設は、どれも1割から4割減っている。いずれも地方に多いと思われる形態で、この12県で旅館・ホテルがどの県でも増えず、小さい宿から畳まれていることと向きが合う。ただし2つは別の統計で、母集団も定義も違う。数を足し引きすることはできない。
地方誘客の施策は、観光客を呼ぶことを軸に組まれている。だが日本人の国内宿泊旅行を目的別に見ると、観光・レクリエーションは5.4%と増えていた。減っているのは出張・業務の18.9%と帰省・知人訪問等の18.1%である。
泊まった先でも、量を落としているのは旅館・保養所・研修施設・会員制の宿泊施設で、いずれも地方に多いと思われる形態である。地方の宿が失ったのは観光需要ではなく、出張と団体という日常の需要だったと読める。観光を増やす施策では、この穴は埋まらない。
人口が小さい12県では、延べ宿泊者数が3.5%減り、旅館・ホテルの施設数はどの県でも増えなかった。客が減った分だけ部屋を減らすことで、稼働率は63.9%から63.6%とほぼ保たれている。増えたのは簡易宿所だけで、12県すべてで増えた。ただし簡易宿所には客室数の記録がない。地方の宿泊供給は、測れる大きな箱から、測れない小さな箱へ置き換わりつつある。⑥では、地方に来ている外国人の中身を見る。
④を読む 稼働率が下がったのは、客が減ったからではない
⑥を読む 県ごとの増減を決めていたのは、近距離アジアだった
延べ宿泊者数と客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」年の確定値(2019年および2025年)、施設数・客室数・簡易宿所の施設数は厚生労働省「衛生行政報告例」第4章第8表(2019年度および2024年度)、日本人の延べ泊数は観光庁「旅行・観光消費動向調査」年報(2019年および2025年)、人口は総務省「人口推計」(2024年10月1日現在)をもとに作成。
3つの統計は母集団も調査方法も違う。供給量は営業許可の悉皆値、延べ宿泊者数は施設への調査、延べ泊数は旅行者への調査である。異なる統計の数値を足し引きした値は出していない。人口が小さい12県は総務省の人口推計で下位12件を取ったもので、地方という区分に公的な定義があるわけではない。客が減ったから宿を畳んだのか、宿が減ったから客が来なくなったのかは、この並びからは分けられない。簡易宿所の増加には、営業許可の区分が変わったことによる付け替えが混ざっている可能性が残る。鳥取は旅館・ホテルが280件減り簡易宿所が286件増えており、熊本にも同じ形がある。この2県は、増えた実体があるのか台帳の付け替えなのか、公開されている数字からは判別できない。
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